りぼんの読書ノート

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ハプスブルクの宝剣(藤本ひとみ)

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今年の夏にオーストリアを再訪してハプスブルク家の威光に触れたので、18世紀のオーストリア継承戦争に題材を得た本書を再読してみました。宝塚の演目にもなっている作品です。

主人公の青年エドゥアルトは、全く架空の人物です。フランクフルトのユダヤ人一族のロスチャイルド家の養子でありながら閉鎖的なユダヤ人社会に溶け込めず、決闘騒ぎを起こして瀕死となったところを救ってくれたのが、ロートリンゲン公フランツ。マリア・テレジア王女に婿入りするためウィーンに向かう途中であったフランツが、才気煥発なエドゥアルトに新たな身分を与えて随行させたところから、物語が動き始めます。

物語の縦糸は、「ハプスブルクの宝剣」と異名をとるほどになるエドゥアルトの活躍です。女皇を認めない周辺諸侯によって侵略を受けながらも有効な手を打てない老臣たちに代わって、次々と新機軸を打ち出す手際は新鮮そのもの。軍事面では、長年反抗していたハンガリー自治権を与えるかわりに出兵させて軍を強化。外交面では、宿敵フランスやロシアと手を組んで、当面の脅威である新興プロイセンのフリードリヒ2世を逆包囲。

物語の横糸は、マリア・テレジアエドゥアルトとの愛憎関係です。互いに惹かれあいながら、ユダヤ人を嫌悪するハプスブルク家の因習から逃れられないマリア・テレジアと、ユダヤ人であることのアイデンティティに悩み苦しむエドゥアルト。もちろん、マリアの夫でありエドゥアルトの主君でも親友でもあるフランツの存在も無視できません。

やがてオーストリアが苦境を脱し、フランツの神聖ローマ帝国皇帝戴冠と時を同じくして、エドゥアルトは自らの苦悩を昇華させ、自らが進むべき道への迷いを振り切るに至るのですが・・。

オーストリア継承戦争の経緯や、フランツのトスカーナ経営の成功や、バイエルンに味方したプラハユダヤ人追放などの史実に基づく物語の展開が、主人公たちの距離感の変化とマッチしていて、よく練り込まれたストーリーだと思います。後に大統治者となる資質の萌芽は見せるものの、本書の中の若きマリア・テレジアが、まるっきり純粋で潔癖な乙女なのもいいですね。

2016/12再読