りぼんの読書ノート

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グリーン・ロード(アン・エンライト)

風光明媚なアイルランド西海岸を舞台にして、母親と子供たちの再会を中心に据えた家族ドラマですが、身につまされることも多いのです。進学や就職で家を出た息子や娘が、新しい環境で新しい生活を営んでいる間、親は実家で年老いていくというのは、洋の東西を問わず世界中で繰り返されている物語なのでしょう。

 

大学入学を決めた長男ダンが家を出たのは1980年のことでした。それから25年、43歳になったダンは1990年代のエイズ蔓延を生き延びて、ニューヨークのゲイコミュニティの中に居場所を見つけています。45歳になった長女コンスタンスは地元で結婚し、3人の子供と未亡人となった母ロザリーンの面倒を見ながら多忙な主婦生活をおくっています。41歳になった次男エメットは途上国支援に身を捧げていましたが、力の限界を痛感しています。37歳になった次女ハンナは念願だった女優になったものの、今は赤ん坊を抱えて休業中で酒に溺れていました。それでも皆、故郷と母親への思いを大切に持ち続けているのです。

 

そんな4人の子供たちのもとに、故郷の我が家で一人暮らしを続けている76歳になった母ロザリーンからクリスマスカードが届きます。「家を売ることにした」というメッセージに驚いた子供たちは、久しぶりに勢ぞろいするのですが、それぞれがわだかまりを抱えていることもあって、ぎこちない時が流れるばかり。繰り返される諍いに疲れ果てたロザリーンが、たまらず車で出かけてしまったことが、町中を巻き込む大事件になってしまうのでした。

 

「思いはすれ違っても、心の底でいつも気にかけている」というのが、典型的な家族の姿のひとつなのでしょう。その一方で「いずれは永遠の別れが訪れる」ことを意識し始める時もやってくるのです。ダンが恋人から諭されるように「人生は後悔に満ちているもの」なのですが、「人生はいつだって生きる価値があって、何度でもやり直す価値がある」ものでもあるようです。

 

2023/7