「三部作シリーズ」の最終作である本書は、タイトルからして意味深長です。第1部の『悪童日記』も、第2部の『ふたりの証拠』も、そして本書の中にも真実など存在しないと宣言しているようなのです。しかも、第2部とは異なって故郷に残ったほうがクラウスとされているので、パラレルワールドに引き込まれたように思わされてしまいます。
前半は西側へと向かったリュカの物語。彼によると、母から離されて祖母のもとで暮らしたのはリュカ一人であり、そもそも双子の兄弟がいたという記憶すら定かではなかったというのです。絶望的な孤独に耐えるために自分が生み出してしまった想像かもしれない兄弟に会うために、数十年後に祖国へと向かったのですが・・。
後半は祖国に残ったクラウスの物語。母親は、愛人に子を産ませた夫を撃った際にリュカのことも傷つけてしまい、夫と息子をともに殺害してしまったという罪の意識の中で生き続けていたのです。一時は父親の愛人の世話になったものの異母妹のサラを愛するようになってしまい、精神を病んだ母親と同居し続けるという「地獄」の中にいたのです。そして数十年後にリュカが訪ねてくるのですが・・。
著者は、本書におけるリュカの体験にはかなり自伝的な要素が入っていると述べています。クラウスのモデルは著者の兄であり、本書のテーマは「祖国、家族、母語、子供時代との別離の痛み」であるとのこと。しかし「三部作シリーズ」の中では、西側に亡命した後の生活はほとんど語られていません。更なる続編もあるようです。
2018/4