りぼんの読書ノート

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ヒストリア(池上永一)

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沖縄を舞台にした小説を書き続けている著者が描いた、沖縄からボリビアに移民した女性の物語は、何とも楽しい作品でした。

第二次世界大戦沖縄戦で死線をさまよい、全ての家族も失った知花煉(チカ・レン)は、戦後の沖縄で闇商売に手を出してひと儲けしたものの、米軍のお尋ね者となってボリビアに逃亡。入植地での過酷な生活に耐え、男どもを手玉にとってしたたかに生き延びていくのですが、実は彼女は本体から落ちてしまった「魂(マブイ)」だったのです。熱病でうなされている間に、本体のレンに肉体を奪い返されてしまいます。

本体のレンはつつましい生活を望むものの、運命はそれを許しません。日系三世のカルロスらと空賊になってコカイン密輸を頼まれたり、ボリビアに逃亡して米軍諜報部の幹部になっていた元ナチスの高官に絡まれたり、女子プロレスの女王カルメンと闘って親友になったりと、波瀾万丈の展開が待っています。

一方で本体から追い出されたマブイのレンは、チェ・ゲバラに出会って恋に落ちてしまいます。ついには元カレが沖縄の米軍から盗み出した核弾頭をキューバゲバラに届けようとするのですが、そこに立ちはだかったのは本体のレン。果たしてレンはマブイの暴走を止めて、マブイを彼女自身の中に取り戻すことができるのでしょうか。

著者によると、レンのイメージは「小悪魔的な色香と企みに満ちた峰不二子」だそうです。しかも精神性と切り離されたマブイのレンは、本体よりもはるかに奔放で闘争的で予測不能であることに加え、意外な純情も持ち合わせてもあり、なかなか魅力的なのです。2人のレンの活躍の一方で、基地が存続し続ける沖縄に対する著者の思いもしっかり描かれ、ボリビア移民の実情にも触れた、読み応えのある作品です。

2017/12