りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017/12 スウィングしなけりゃ意味がない(佐藤亜紀)

徹底した歴史考証を背景に押しこめて余計な説明を排除する佐藤亜紀さんの新作は、期待にたがわず素晴らしい作品でした。文句なしに今月の1位とさせていただきます。
言語と小説が生まれる過程を考察した『プロローグ』は、もはやSFですね。ネットワーク化された超人類を登場させて意識と知覚の限界に挑んだハードSF作品の『エコープラクシア』に近いものを感じます。


1.スウィングしなけりゃ意味がない(佐藤亜紀)
ナチス政権下のハンブルクで、敵性音楽とされたジャズにうつつを抜かす金持ちのお坊ちゃんたちが、通称「スウィング・ボーイズ」。しかし彼らは、そのせいで反ナチス志向を強め、戦時下で正気を保ち続けていたのです。ナチス精神主義に支配された「お馬鹿の帝国」が破滅へと突き進む中、戦後を見据えて闇音楽市場で稼ぎまくろうとする少年は、うまく逃げ切ることができたのでしょうか。

2.ヒストリア(池上永一)
沖縄戦で死線をさまよい「魂(マブイ)」を落としてしまった女性レンが、ボリビアに移民して破天荒な冒険を繰り広げます。しかしそれは独り歩きし始めたマブイの仕業だったのです。革命児ゲバラや、南米に逃亡した元ナチスの高官や、アメリカのCIAらが入り乱れるボリビアで、本体のレンはマブイから肉体を取り戻せるのでしょうか。そして日本に返還された沖縄に戻ってきたレンは、何を思うのでしょうか。

3.プロローグ(円城塔)
登場人物である「わたし」が、書き手である「わたし」と会話しながら、小説が生まれていく「序章」を展開していく「自称・私小説」です。日本近代文学の祖である漱石を意識して始まった物語は、やがてAIの自己学習過程のようになっていきます。複雑さに堕した日本語と、非効率的な創作形態である小説について、徹底的な考察がなされていきます。



2017/12/28