りぼんの読書ノート

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形見函と王妃の時計(アレン・カーズワイル)

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驚異の発明家(エンヂニア)の形見函の続編ですが、「ある人物の生涯をコラージュした形見函」という概念は踏襲しているものの、内容的には全く別の作品です。

ニューヨーク公共図書館に勤める20代の司書アレクサンダーが、ヘンリー・ジェイムス・ジェスン三世なる謎の老紳士から、奇妙な依頼を受けたところから物語が始まります。ヘンリーが蒐集した「18世紀の人物の形見函」の空白を埋める手助けをして欲しいというのです。

やがて、そこに入るべきものは、時計職人のブレゲマリー・アントワネットの依頼を受けて作った豪華絢爛な懐中時計であることが判明。しかしその時計は、1985年にコレクターから盗まれていたのです。「マリー・アントワネットおたく」や「IT富豪の機械おたく」らに及ぶ、アレクサンダーの探索は実を結ぶのでしょうか。そもそも謎の老紳士の真の狙いは何なのでしょうか。

老紳士の意図を曲解したアレクサンダーは、依頼を逆手に取った罠を仕掛けるに至るのですが、2人の関係は今後も続いていきそうです。どうやら老紳士の意図は形見函を完成させることではなく、後継者を得ることのようなのですから。

図書館という知の迷宮に秩序を与えようとする「メルヴィルの分類法」や、時計の行方を捜索する「文献世界の冒険」など、いかにも「本好き」の読者のために書かれたような作品です。宙に浮きがちなアレクサンダーの魂を地は落ち着ける役目を担うフランス人妻のニックも、本の装丁やスノードームなどの工芸品を製作する「周辺者」ですしね。

2017/11