りぼんの読書ノート

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卵を産めない郭公(ジョン・ニコルズ)

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1960年代、米国東部の名門カレッジで出会った男女のラブストーリー。新訳を著した村上春樹さんによると、本書が出版された1965年というのは「エアポケットの時代」だそうです。1950年代のサリンジャーのような求道性は薄れ、その後の反戦思想やヒッピームーブメントも起きる前。それでも青春時代は「生きにくい」ものだったのでしょう。

米国東部の名門カレッジで知り合った、真面目で内気な学生ジェリーと、饒舌で風変わりな女子学生プーキーの恋物語。プーキーに振り回されながらも、次第に彼女に惹かれていくジェリー。街角でのくちづけ、吹雪の夜の抱擁。しかしジェリーは同時に、酒を飲んで馬鹿騒ぎをするカレッジ文化にも染められていきます。

そして別れの時がやってくるのですが、そのことは冒頭から記されています。彼女と結婚するか棄てるかの選択の代わりに、彼女との間の自殺協定に署名したと。しかもそれは数年前を回想しているので、少なくともジェリーは生き延びていることもわかっているのです。結末がわかっている回想という展開は、訳者の新著である騎士団長殺しと同じですね。

従って本書の魅力は、2人の出会いから別れまでがどのように綴られるのかにかかってくることになります。村上春樹さんの訳なのでスラスラ読めてしまうし、「草の上を転がり日和」などのプーキーの言葉は、いかにも初期の訳者が使いそうな表現。1960年代前半という「時代を閉じ込めた小説」とのことですが、どうも日本のバブル時代の雰囲気も漂っているように思えてくる作品でした。まだそこまで消費者社会ではないということは、ブランドの固有名詞が登場しないことでわかるという趣旨の解説もありましたが・・。

2017/11