りぼんの読書ノート

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ギリシア人の物語2(塩野七生)

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第1巻で描かれたペルシア戦役の後、アテネは黄金時代を迎えます。その時代をほぼひとりで支えたのが、不世出の指導者であるペリクレス。民主主義を築き上げたアテネで、民主政がもっともよく機能していたと言われる33年間が、たったひとりの指導者によって統治されていたことは象徴的です。

ペリクレスと同時代のペルシアではアルタクセルクセス1世、スパルタではアルキダモス2世という、ともに穏健で現実主義者の国王が長く治めていたことも、見逃せません。民主政と安全保障とは不可分の関係のようです。しかし民主政の最大の敵が「ポピュリズム」であることもまた、現代でも変わらない事実なのです。

対外的にはデロス同盟の綻びを繕いながら、経済的には新たな植民都市や後背地との交易を発展させ、内政的にはパルテノン神殿を再建させた、ペリクレス治世の晩年に起きたのがペロポネソス戦争です。アテネの覇権を不満に思うコリントが、辺境での対立をきっかけにスパルタを巻き込んで起こした戦争の初期に、ペリクレスは病死。そしてデマゴーグが登場してきます。

著者は、民主制のリーダーとは民衆に自信を持たせることができる「誘導者」であり、衆愚制のリーダーとは民衆の不安を巧みに煽る「扇動者」であると定義しています。才能・容姿・家柄・人望に秀でたアルキビアデスは、人心を掴んでシチリア遠征に乗り出すのですが、それが運命の転換点でした。シチリアで大敗したアテネからは同盟都市の離反も相次ぎ、ペリクレス死後わずか25年で覇権を失い、ついにスパルタに降伏。

著者は「アテネ人は自滅したのであった」との言葉で本書を結んでいます。将来に不安を抱いたアテネ市民が平静を失って、デマゴーグの煽動に乗せられて極端な判断を下したことが、自滅の原因だったのです。ポピュリズムが横行し始めた、現代社会への警鐘にほかなりません。

2017/11