りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

静かな雨(宮下奈都)

イメージ 1

羊と鋼の森で2016年度の本屋大賞を受賞した著者の「幻のデビュー作」です。

クリスマスの日に失業したユキスケは、偶然見つけたパチンコ屋の裏のたいやき屋の女性「こよみさん」と知り合います。きっかけは、彼女が作るたいやきが、とても美味しかったことでした。彼女の背景はほとんど描かれないのですが、どうやら独りで健気に生きている女性のようです。ユキスケは、彼女の率直な強さに惹かれていきます。

2人の関係を変えたのは、こよみさんが事故にあったことでした。外傷は無いものの意識不明になったこよみさんは、3か月後に目を覚ましますが、短期記憶に障害が出ていました、事故以前の記憶は残っているものの、事故以降の記憶は1日経つと消えてしまうのです。ユキスケは目覚めた後のこよみさんと同居をはじめるのですが・・。

本書の中でも登場する博士の愛した数式のような状況ですが、それが若い女性の身に起きてしまったわけです。ユキスケの記憶だけは積み上がっていく一方で、こよみさんの記憶には何も残らないという関係なのですが、それを100%ネガティブなものとして描かないのが、著者のスタイルですね。記憶以外のどこかに、確実に何かは蓄積されているのです。「著者の原点」と紹介されていますが、確かにその後の作品との繋がりが感じられます。

2017/11