2004年11月の『第壱部』刊行から約13年。ついに「酒見三国志」が完結しました。ヤカラのような劉備軍団。何でも欲しがる曹操。広島ヤクザのような孫権一家。そこに白羽扇を持って登場した魔性の変質者・諸葛孔明。そして正史「三国志」や「三国志演義」などに基づく博覧強記ぶりをユーモアたっぷりに語る、著者の視点が新鮮なのです。
さて本書です。主役トリオの劉備・関羽・張飛も、敵役の曹操も既に退場した後の「三国志」の見せ場は、孔明の南征に続いて、五度の北伐における司馬仲達との対峙、五丈原での最期になります。「三国志」とは基本的に「曹操(後継者の曹否・曹叡を含む)と孔明の物語」なのですが、主役級が消えた後の舞台は、やはり寂しいもの。北伐の初戦までは活躍した趙雲もその後に病死してしまいますし。
宇宙と会話して「天の時」を知り、人間離れした洞察力で「地の利」をものにする孔明ですが、人材不足の蜀では「人」に恵まれなかったようです。乾坤一擲の勝負であった第1次と第4次の北伐では、それぞれ馬稷の街亭での大敗と、李厳の補給サボタージュで中原をあきらめることになります。そして最後の第5次北伐では五丈原の陣中で病死。「死せる孔明が仲達を走らす」エピソードはエピローグにすぎません。
著者は、孔明の死で物語を終えています。孔明死後の姜維の活躍や、魏における司馬一族の台頭、蜀の滅亡、魏にかわる晋王朝の建国、呉を滅ぼして中国の統一に至る過程は、描くまでもなかったということなのでしょう。
2017/11