りぼんの読書ノート

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夜の谷を行く(桐野夏生)

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かつて連合赤軍の「女性兵士」であり、服役した過去を持つ西田啓子は、ひっそりと「余生」を過ごしています。そんな彼女の生活に変化が生まれたのは2011年2月のこと。彼女は既に63歳となっていました。

きっかけは、元連合赤軍最高幹部・永田洋子の獄中死の知らせでした。それを機に取材を依頼してきたジャーナリストを仲介として、以前の女性同志や、政治結婚していた昔の夫と再会。さらに結婚を控えた姪に過去を打ち明けるのですが、彼女の言葉は誰に対しても響きません。それは啓子の気持ちが、山岳ベースを脱走して暗い谷を歩いた夜からずっと、ほぐされていなかったからなのでしょう。やがて彼女は、これまで固く封印してきた事実を記憶の底から掬い上げることで、ようやく過去の「総括」を果たすのです。

著者は、永田洋子の死と原発事故が連合赤軍事件を過去のものとさせたことで、このテーマと向き合うことができたと述べています。それは、先に自死した森恒夫を夢想的な革命家とした一方で、永田洋子に鬼女のイメージを纏わせた判決文への挑戦でもあったようです。そして女性兵士たちの中に、妊婦、看護師、保育士、教育者などがいた「理由」に迫っていきます。

啓子には特定のモデルはおらず、女性兵士の総体から作り上げた人物だそうです。そんな主人公が「封印してきた事実」とは、女性兵士たちの存在理由の根源にほかなりません。そしてそれは、当時の左派活動が女性解放運動との矛盾を放置していたことと、軌を一にしているものだったのでしょう。連合赤軍が内包してきた幼稚さは、情勢認識や革命理論だけでなく女性蔑視にも顕れていたとの視点から、事件の「総括」を果たした意欲作です。

2018/3