りぼんの読書ノート

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天国でまた会おう(ピエール・ルメートル)

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その女アレックス』で一躍ベストセラー作家となった著者の新作は、第1次大戦後のフランスを舞台にしたビカレスク・ロマンでした。

第1次大戦の終了間近の西部戦線終戦前の戦功を焦るプラデル中尉の不正を目にしたアルベールは、中尉によって生き埋めにされてしまいます。それに気づいたエドゥアールは、瀕死のアルベールを救出したものの、飛来した砲弾で顔を半分失う大怪我を負い、家族との繋がりを絶つのです。除隊した2人は共同生活を始めますが、戦死者は称揚する反面で生き延びた兵士たちに冷淡な世間の中で、たちまち困窮に陥ってしまうのでした。

画才のあるエドゥアールは「戦争に宣戦布告」しようと、フランス各地の自治体や有志が建設を企てる戦没者慰霊像のスケッチだけ販売し、建設費の前金を入手したら逃亡しようという大掛かりな詐欺を企てます。善良なアルベールは反対するものの、生活に絶望した末に計画への参加を決意。皮肉なことに、エドゥアールと不仲だった大富豪の父親も、その詐欺に引っかかりそうになるのです。

一方で戦功によって大尉に昇格したプラデルは、エドゥアールの姉と結婚して大富豪の財産相続を目論むだけでは飽き足らず、戦没者の再埋葬を含む戦没者追悼墓地の建設事業で大掛かりな不正を行い、巨万の富を手に入れようとしています。果たして2組の詐欺事件は、どのような結末を迎えるのでしょう。

本書の対立軸は、戦勝国における「勝者プラデル」と「敗者アルベール」にあるのでしょう。勧善懲悪思想に貫かれているわけではありませんし、本書の結末がエドゥアール父子の確執を昇華させたわけでもありません。2組の詐欺が暴かれていく過程においても、ミステリ要素は希薄なのです。それでも、ある種のカタルシスを強く感じさせる作品になっているのは、人間性に対する深い洞察と、戦争というもっとも非人間的なものへの反抗がベースにあるからなのでしょう。

2017/11