りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

恋糸ほぐし(田牧大和)

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絹製のつまみ細工で作る花簪職人の忠吉は、25歳にして職場も住まいも失くしてしまいます。親方のお嬢さんから寄せられていた好意に応える度胸もないまま、親方が急死。お嬢さんと結ばれて跡を継いだ兄弟子から疎まれて、追い出されてしまったのです。

身寄りのなかった忠吉を育ててくれた麻布の大中寺の和尚・杉修と、その跡を継いで住職となっている幼馴染の以風の好意で、寺に住まわせてもらうことになりましたが、そこにはつらい体験をして耳が聞こえなくなった少女・さきが同居していました。

寺男の仕事をしながら作った小菊の花簪が、たまたま恋に悩む男女を結びつけたことから、恋愛相談まで受けるようになったものの、和尚が彼に期待しているのは、さきの心を開くこと。果たして、さきの様子を探りに来たらしい不審な女が、寺にやってくるのですが・・。

よくできた人情話ですが、ヒネリが少ないようです。語り手自身の出自にも秘密が隠されているような、二重三重の仕掛けが著者の特色だったと思うのですが、本書はかなりストレート。それとも、孤児であったという忠吉の過去に関わる物語に踏み込んでいく、続編でも予定しているのでしょうか。もっとシリーズ化して欲しい作品は、他にも多いのですが。

2017/11