りぼんの読書ノート

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亡き王女のためのパヴァーヌ(パク・ミンギュ)

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全人類から「アチャー」されている苛められっ子が、人類をアンインストールする選択権を賭けて卓球をするというピンポンの著者が次に書いた作品は、意外にも純愛ストーリーでした。

現実世界に馴染めない作家志望の19歳の少年と、不幸な少女の運命の出会い。自分から身を引いた少女を捜し出した少年。クリスマスの夜の再開と愛の誓い。直後に大事故に巻き込まれて数年もの間、生死の境をさまよった少年。少年の運命を知らないまま、傷心を抱いて外国へと旅立った少女。そして15年後に運命の再会・・。こう書くと、いかにも韓国ドラマのような都合のいいストーリーです。35歳になって再会を果たす2人の場面など、「冬ソナ」の主人公たちが演じてもいいほどのイメージ。

しかし本書に登場する少女は、世界で最もルックスを重視する韓国において、生まれながらの負け犬とされる、とてつもなく醜い少女なのです。しかも学歴社会でもある韓国で二級市民扱いされる、商業高校の卒業生。少女の不幸とは、生まれてからずっと「ブス」であるために、苛烈な排斥を受け、侮辱され、笑いものにされてきたことだったのです。

編集者からも修正を求められたというヒロインの設定を、著者は見事に昇華させてくれました。「ハッピーエンディング」と題された最終章は、ハッピーとかアンハッピーとかいう概念を越えて、「人生」というものの奥深さまで考えさせてくれるのです。『ピンポン』とは作風もテーマも異なりますが、社会から疎外された者たちへの共感が、著者の原点なのでしょう。

本書は、ベラスケスの絵画「ラス・メニーナス」と、そこから着想を得たというラヴェルピアノ曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」にインスパイアされた作品とのこと。ヒロインはベラスケスが描いた薄幸の王女ではなく、存在感のある侍女なのかもしれません。

2017/11