りぼんの読書ノート

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古都(川端康成)

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言わずと知れた日本人で初めてノーベル文学賞を受賞した大作家ですが、今まで数冊しか読んだことがありません。小学校の国語の教科書で紹介されるような作家は苦手だったのです。原田マハさんの『異邦人(イリビト)』が本書へのオマージュであるとのことで、手に取ってみました。

 

主人公は、京の呉服問屋の一人娘として美しく育った千恵子。捨て子であったものの、両親からは実子同様に愛されていた彼女が、祇園祭の夜に、自分に瓜二つの村娘・苗子に出逢ったことから物語が動き出します。千恵子に惹かれる幼馴染の真一と竜助の兄妹。身分違いの千恵子への恋情を諦める代償として苗子に接近する、帯職人の息子・秀男。そして互いに懐かしみあいながら、育った環境の違いもあって、一緒に暮らすことはできないという苗子。実は双子であった千恵子と苗子の、まるで北山杉のような意志の強さは、養父を含めた京男たちの軟弱さと好対照です。

 

その背景に描かれるのは、平安神宮御室仁和寺の花見、葵祭、鞍馬の竹切り会、祇園祭、大文字焼、時代祭、北野踊などの京の風物詩。新潮文庫版の解説を書いている山本健吉氏は、「京都の風土、風物の引立て役としてこの二人の姉妹はある」と書いていますが、私も同感です。京の名所や四季を描く文章は美しいけれど、物語としての内容は薄い。ノーベル文学賞の授賞対象作にもなった著者63歳の作品ですが、国内より海外での評価の方が高いのは「美しい日本の京都」への外国人の憧憬びせいなのかもしれません。

 

2021/10