りぼんの読書ノート

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やがて満ちてくる光の(梨木香歩)

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著者はエッセイの名手でもあり、2002年の『春になったら苺を摘みに』から2020年の『風と双眼鏡、膝掛け毛布』に至るまで、その時々の心象風景や自然観察を綴った作品はどれも素晴らしい作品として成立しています。しかし2019年7月に出版された本書は、著者のデビュー時から25年に渡って綴られた端切れのような文章を纏めた1冊です。著者自身、このような文集が「一冊の本として成り立つ求心力があるだろうか」と懸念したとのこと。

 

確かにテーマに統一性はなく、本書の内容をひとことで表すことは難しいのです。しかし本書からはひとりの人間が生きてきた歴史を感じることができるのでしょう。スウェーデンのなんにもない所にあるリンネ研究所や、結局買えなかった素晴らしい庭を持つ大邸宅への思い、淡路島・伊勢神宮・琵琶湖・アイスランド・英国各地などの旅先で感じたこと、河合隼雄氏、河田桟氏、佐藤さとる氏らとの対談や会話、そして3.11へに感じたこと・・。

 

著者の作品の愛読者としては、『沼地のある森を抜けて』についての自書解説が興味深いものでした。この作品は、「光と闇」というような秩序を前提としての二項対立ではなく、秩序が生まれる前の混沌であり、光が現れるその一瞬までの話だそうです。ぬか床から人が生まれてくるという「梨木進化論」には当時あっけにとられたものですが、ようやく理解できた気がします。

 

2021/10