りぼんの読書ノート

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イレーナ、永遠の地(マリア・V・スナイダー)

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『毒見師イレーナ』に始まる長い物語が第6巻にあたる本書で完結しました。このシリーズの特色は、法の下で個人の権利が厳しく制限される平等な国家と、魔術師というエリート層の支配下で自由や文化を満喫できる国家の比較にあったのですが、両国の関係が友好モードに入ってからは薄れていたように思います。それは全く普通の少女であった主人公イレーナが、実はとんでもない能力の持ち主であったという展開と軌を一にしていたわけですが、最終巻になってこのテーマが復活したようです。

 

イレーナらの活躍で友好関係を結んだイクシアとシティアでしたが、両国はいま、支配欲に駆られた悪しき集団「結社」の手に落ちようとしていました。イクシアの最高司令官アンブローズも、シティアの魔術師範や議員たちも、結社の操る毒薬によって操り人形と化してしまったのです。そして結社の支配を完璧なものとするために、両国は戦争を始めようとしていたのです。

 

そんな危機の中にあって、失われたイレーナの魔力は戻りません。それは彼女の妊娠のせいなのでしょうか。かつてはイレーナに死刑宣告を下しながら、今では彼女の夫となっているイクシアの防衛長官ヴァレクもまた、アンブローズから解任されて権力を失ってしまいます。イレーナとヴァレクは、彼女たちに味方するわずかな仲間たちとともに、結社の陰謀を暴き出そうとするのですが・・。

 

イレーナが毒見役になるところから始まったシリーズだけあって、強力な毒薬マイラブや、麻痺薬キュレア、その解毒剤でありながら意思を奪うテオブロマ、魔術師から魔力を奪うハーマンなどの毒薬が登場し、園芸師であるイレーナの父親とともに重要な役割を果たします。ただ著者は薬物を肯定しているのかどうなのか、その世界観をよく理解できないまま読了してしまいました。何か見落としているのかもしれませんが、このシリーズをもう一度読む気は起きないなぁ。

 

2021/10