りぼんの読書ノート

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パチンコ 上(ミン・ジン・リー)

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1979年に家族とともにソウルからニューヨークに移住した少女は、アメリカで弁護士となり、そして作家になりました。学生時代の1989年に着想を得たという在日コリアンの物語は、ひとたびは草稿もできあがったものの、東京在住時代に行った取材に基づいて一から書き直し、2017年に本書として刊行に至ったものです。その年の全米図書賞の最終候補にまでなりました。

 

4世代に渡る在日コリアン家族の長い物語は、1910年の釜山から始まります。日本が大韓帝国を併合した年に、釜山のすぐ南にある影島(ヨンド)の漁村に住む夫婦は、身体に障害があるものの利発な一人息子の将来を考えて下宿屋を開きます。やがて息子は若い嫁ヤンジンを娶って一人娘ソンジャを得ますが、彼女が13歳の時に結核で死亡。そして物語は、ソンジャの恋愛によって動き始めます。

 

日本との貿易に携わる都会人ハンスと恋に落ちた16歳のソンジャは、やがて身籠りますが、彼には日本に妻子がいると知らされて苦悩します。そんなソンジャに手を差し伸べたのは、下宿に滞在した若き牧師イサクでした。彼はソンジャの子を自分の子として育てると誓い、ソンジャとともに兄が住む大阪の鶴橋に渡るのです。そしてハンスとの息子である長男ノアと、イサクとの息子である次男モーザスが生まれますが、時代は戦争へ、そして敗戦へと向かっていくのでした。

 

日本統治下の朝鮮で起きた現地人への虐めや、日本人による在日コリアンへの差別など、日本人にとっては居心地も悪い部分も含まれますが、本書は日本人を糾弾するための作品ではありません。著者の夫は日本人とのハーフであり、作品には善良な日本人も悪辣なコリアンも登場してきます。問われるべきは在日コリアンという存在が生み出されて現在に至ってしまった歴史的・構造的な問題であり、「私たちにできるのは、過去を知り、現在を誠実に生きることだけだ」という著者の言葉には重みを感じます。本書は、アメリカに移民した著者自身の物語でもあるのでしょう。下巻では、息子たち、孫たちの世代の物語が描かれていきます。

 

2021/10