りぼんの読書ノート

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紳士たちの遊戯(ジョアン・ハリス)

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ショコラをはじめとする「フード・トリロジー」の著者による学園ミステリー! 「同姓同名の別人?」とも思いましたが、「視点の変更」によって真相に迫っていく語り口は、紛れもなくジョアン・ハリスさんですね。ただこの作品では、2人の人物の視点のみならず、同一人物による過去と現在の視点からの叙述も含まれているため、ストーリーは少々複雑になっています。

伝統あるグラマー・スクールの男子校で不可解な事件が次々と起こっていきます。はじめは小物の紛失程度の些細な事件だったのが、教師の交通違反の密告、人種差別の糾弾、用務員小屋への放火、アレルギーを持つ生徒の昏倒事件・・と次第にエスカレートしていき、やがて生徒の失踪が発生。さらには教師陣に蔓延する不祥事が暴露されて警察の介入を招くに至って、学校は存亡の危機に立たされます。

これらの一連の事件の背後には、学校を崩壊させようという悪意が潜んでいました。それは、かつてこの学校への入学を渇望しながら果たせず、偽学生として入り込みながらも悲惨な事件によって当時の生活に終止符を打たねばならなかった、学園に愛憎を抱く人物が、引き起こしたものだったのです。

犯人と対決するのは、学園を愛する老教師のストレイリー。彼自身、15年前に起きた悲惨な事件の当事者であったこともあり、犯人も学園の象徴として、彼を憎みながらも、彼に認められたいとの複雑な思いを抱いている相手だったのでした。犯人によって孤立に追い込まれながらも、ついに真相にたどり着くのですが・・。

ストレイリーと犯人が交互に一人称で語っていく進行は、チェスの理詰めの対極を思わせます。なぜ、犯人がここまで学園を神聖視しながら憎んでいるのか、犯人の正体は誰なのかとの興味をあちこちに伏線を潜ませながら最後まで繋ぐあたり、さすがです。また物語の本筋ではないものの、生徒を観察し生徒を愛する「老教師の視点」がいいですね。でも、この表紙は絶対にいけません。著者が最後まで隠そうとしていることがバレバレですから。

2008/6