「『薔薇の名前』とアガサ・クリスティの名作が融合したかのごとき、至高の傑作!」とコピーにありましたが、期待を裏切らない傑作でした。1663年、クロムウェルが没して王政が復古したチャールズ2世治下のオクスフォードで起こった大学教師の毒殺事件。その真相をめぐる4人の回想がことごとく食い違うのは何故なのでしょう。逮捕されて死罪を言い渡された貧しい雑役婦とはどのような人物であり、彼女はやはり犯人なのでしょうか。実は4人とも信頼ならざる語り手だったのです。
第一の手記「優先権の問題」
第1の語り手はヴェネツィア人の医学生であるマルコ・ダ・コーラ。家業の貿易商権を取り戻すためにイギリスに使わされたものの、当面の生活と対策を練るために知人の医師ローワーを頼ってオックスフォードを訪れています。その過程で見知った貧しくも美しい雑役婦サラの母親を治療中に、突然死した大学教師ロバートの検証に立ち会わされます。死因となった砒素を購入したことと、被害者の指輪を盗んだことが明らかになったことで、サラは死刑となるのです。
第二の手記「大いなる信頼」
第2の語り手はオックスフォードの法学徒であったジャック・プレスコット。王党派として戦っていたものの裏切り者として告発され、一族の土地や財産を没収された父親の無実を証明しようとしています。父親を嵌めた陰謀の全貌が判明してくる過程で、彼の前に立ちふさがったのが魔女と噂の高いサラでした。サラの抹殺を決意したプレスコットは、大学教師ロバートの死の現場にいた友人をかばうために、サラに罪を被せようとします。指輪を盗んだ犯人はプレスコットだったのですね。
事件のアウトラインは明確になりますが、彼らの手記は、下巻に入って根底から覆されてしまうのです。著者の鮮やかさに驚嘆してしまいます。
2022/2