りぼんの読書ノート

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密偵ファルコ 1.白銀の誓い(リンゼイ・デイヴィス)

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ローマ帝国を舞台にした歴史ミステリーです。シリーズ第一作。

時は紀元70年のローマ。皇帝ウェスパシアヌスが基盤を固めつつあるころといいますから、アウグストゥスにはじまる「ユリウス・クラウディウス朝」が暴帝ネロの自殺で終焉し、1年の間に4人も軍人皇帝が交替した中でウェスパシアヌスが勝ち残った直後ですね。五賢帝の時代が訪れるのは四半世紀後であり、問題はありながらもまだまだローマ帝国が活力に溢れている時期です。

だから、時代設定としては目の付け所がいいんです。問題は「語り口」。オリジナルがそうなのか、訳者のセンスによるのか、チャンドラーばりのアメリカン・ハードボイルド口調は、この時代に向いているのかどうか・・。少々違和感あり。

軍を早めに引退してローマで探偵業を営んでいる30歳のファルコは、元老院議員の依頼で、当時の銀の産出地であったブリタニアでのインゴット横領事件の調査に乗り出します。はるか遠くブリタニアまで赴き、鉱山奴隷に身をやつして探り出した真相は、インゴットが皇帝親衛隊に流れていて、皇帝暗殺の陰謀に繋がっているという、おそるべきものでした。そして、ブリタニアで巡り合った元老院議員の娘へレナとの身分違いの恋の行方は・・。

尿を使ってチュニクの染み抜きをするとか、剣闘士を雇って家賃滞納の店子を脅迫するとか、ローマ軍団の駐留地などの地名や旅の様子とか、随所にローマらしい雰囲気が出ているけれど、どこまで「史実」に基づいているのでしょう。

とはいえ、ブリタニアのローマ軍団が全滅の危機に追い込まれたでのボディカの反乱とか、ウェシパニアヌスの息子ティトゥスによるエルサレム制圧やユダヤ皇女ベレニケとの恋とか、歴史的事実はしっかり押さえていますし、親衛隊による皇帝暗殺の可能性など、まさに「この時代の流行」のようなテーマも交えていますので、歴史に詳しくなれるかもしれません。

ちなみに、若くして名将であり、在位期間は短かったものの後年は皇帝として名君の誉れも高かったティトゥスは、ファルコの同年代でもあり、今後もスポンサーとして、あるいは友人として、今後もレギュラー出演するのかもしれません。ハードボイルド口調には違和感ありますが、もう少し読んでみようと思います。

2008/6/16読了