りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

薪の結婚(ジョナサン・キャロル)

イメージ 1

現実と非現実が交錯するダーク・ファンタジーの名手が書いたヴァンパイア物語。といっても本書に登場するヴァンパイアは、人血を吸い、日の光や十字架やニンニクを恐れて日中は棺桶に眠り、夜な夜な狼や蝙蝠に変身するといった類型的なヴァンパイアではありません。

それは徹底して利己的に振る舞い、他者の人生を奪い、他者の運命を利用して捨て去りながら生き続け、あるいは生まれ変わり、死者たちから恨まれ憎まれている存在であり、なんと当人が、自分がヴァンパイアであることに気づいてすらいないのです。

主人公はミランダという30代の女性。古書の売買に携わっているミランダは、久しぶりの同窓会で、高校時代の恋人だったジェームズが亡くなっていたことを聞かされてうちのめされますが、彼女を絶望から救ってくれたのは、知的で明るくてセンスのいい、ヒューという男性。彼には妻子がいましたが、ミランダはヒューの愛情を勝ち取り、彼の知人で歴史上の人物たちとも知り合いだったという不思議な老女フランソワから贈られた家で、同居をはじめます。

とまあ、ここまでは順調にみえるのですが、いつものキャロルの小説らしく、幸福の絶頂と思えるところから、何かがすこしずつズレはじめていきます。死んだはずのジェームズがミランダの夢に現れたり、ミランダを恨んでいるかのような幻の男の子に石をぶつけられたり・・。その子は、ヒューが妻子と暮らしていれば生まれたはずの男の子でした。

不思議な事件がクライマックスを迎える中で、ヴァンパイアの正体が明らかになるのですが、物語はそこで終わりません。ようやく自分の正体を知ったヴァンパイア自身による贖罪の物語がそこから始まります。

タイトルの『薪の結婚』という言葉は、「思い出に値することに出会うたびに木片にそれを書き付け、人生が終わりを迎えるとき、焚き木にして火を熾す」という、ミランダがヒューから教わった習慣。人生の最期に思い出をひとつひとつ火にくべていくなんて、綺麗すぎますが・・。

2008/6/13読了