りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サウスバウンド(奥田英朗)

イメージ 1

小学校6年生になった二郎の父親・一郎は、めちゃくちゃ変わり者。もと過激派の闘士で今は脱党しているけれど、本質的にはアナキスト国民健康保険など払う必要ない、税金も払わない、学校にも行く必要はない、と言っていつも周囲と軋轢を引き起こしています。そんな父親がある日宣言します。「じゃあ、国民や~めた」!!!

家族で引っ越した先は、西表島。そこの国家権力といっても、純朴な駐在さん。古き良き共同体のなごりを残す、おおらかな島の生活がはじまった・・と思ったら、そこで一家が遭遇したのは、リゾートホテル建設問題。一家が住んでいたのは、ホテル建設予定地に残っていた廃屋だったから、一郎の反抗心は燃え上がります。

・・というお話なのですが、めちゃくちゃ型破りな父親と、ちょっと変わった母親と、家族から距離をおきたがっている姉と、普通の小学生生活をおくりたい二郎と妹の桃子の家族の関係が、東京と西表とで微妙に変わっていく様子が多くのデテイルやエピソードから、よく伝わってきます。

二郎の視点から見た子どもの世界の複雑さも、過激派のセクトや環境運動とは一線を画したトリックスター的な父親の姿も、そんな父親を深いところでは理解しているような母親の姿も、眼前に浮かんでくるようです。読んでいて楽しい作品でした。

2008/6