りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

川は静かに流れ(ジョン・ハート)

イメージ 1

デビュー作キングの死は、スコット・トゥローを思わせる法廷サスペンスでしたが、第2作の本書は、T.ジェファーソン・パーカーばりの「壊れた家族のドラマ」でした。

裁判では無罪になったものの、一旦殺人罪の被告となった者はもう田舎には住めません。しかも、法廷で本人に不利な証言をしたのが父親の後妻という「身内」ならばなおのこと。濡れ衣を着せられて故郷の農場を後にし、5年ぶりに帰郷したアダムを待っていたのは、まだ息子を許してはいない父親と、不機嫌な昔の恋人、そして新たな殺人事件でした。本書は「ミステリ」形式をとってはいるものの、「壊れた家族」の中で居場所を失った主人公が、自分を取り戻していく物語です。

少年時代に母親が自殺した真相は何だったのか。義理の母親は、5年前になぜアダムを告発したのか。アダムのかつての親友は、なぜ彼を故郷に呼び戻したのか。父親が犯した「罪」とは何だったのか。父親と長年良き友人だった男は、なぜ自分を犠牲にしてまで父親をかばうのか。そして、アダムは父を許せるのか。

本書の舞台が、アメリカ南部の原風景ともいうべきノース・カロライナの農場というのもいいですね。アメリカの「故郷」と「家族」を語るのに最もふさわしい場所と思えます。折りしも、原子力発電所建設問題(すなわち土地売却問題)が起きていることも効果を上げています。冒頭で「T.ジェファーソン・パーカーばり」と言いましたが、やはり作風は異なります。パーカーだったら、原発問題のほうをドラマの本線とするのでしょうから。

2009/5


(後記)
アメリカ旅行に持っていくつもりの本でした。失意の中で読んだので時間がかかりました(笑)