りぼんの読書ノート

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エデンの東 上(ジョン・スタインベック)

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ジェームズ・ディーンが初出演にして主演を務めた映画が有名ですが、映画化されたのは本書の後半部分。著者が「自身の全てを注ぎ込んだ」と自負する超大作の前半では、父親たちの世代の物語が展開されます。タイトルは、弟アベルを殺害したカインが追放された地「エデンの東にあるノド」から採られており、父親の愛情を巡って相克する兄弟たちという本書のテーマを、直接的に現わしています。 

 

主人公は、コネティカットの農家に長男として生まれたアダム・トラスク。生まれてすぐに母と死別し、継母アリスに育てられながらも、温厚で善良な青年に育ちます。しかし、厳格な父サイラスの愛を渇望する腹違いの弟チャールズに虐げられる辛い日々を送っていました。アダムを偏愛する元軍人の父親サイラスは、アダムを軍に入隊させますが、この体験は彼の人格を一変させてしまいます。 

 

ここで登場するのが、『ハツカネズミと人間』に登場するカーリーの妻の発展形とも思える悪女キャシー。おそらく家族全員を焼き殺した過去を持ち、男たちを手玉に取って生きてきたものの、その反動で手ひどい暴力を受け、半死半生でトラスク家に救われます。たちまちキャシーと恋に落ちて生気を取り戻したアダムは、彼女と結婚して生家を出て、カリフォルニアのサリナスへと向かいます。そこでアダムの友人となったサミュエル老人は、キャリーの冷たい眼差しに得体の知れない邪悪の影を見いだすのですが・・。 

 

アダムの使用人となる中国系移民のリーが、いい味を出していますね。豊富な教養を身に着けており、英語に堪能ながらあえて片言しか話せないふりをしている人物。彼はサミュエルと親しい友人となり、サミュエル亡き後もアダム一家を見守っていきます。彼の見事な聖書解釈は本書の解題的な意味合いを持つほどであり、著者はリーに審判者としての役割を担わせているように思えます。 

 

後半は、アダムとキャリーの息子である双子の兄弟、キャルとアロンの物語となっていきますが、前半だけでも十分に読み応えのある作品です。 

 

2020/5