りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009/4 ローマ亡き後の地中海世界(塩野七生)

4月には地中海世界の古代・中世史に関するノンフィクションを3冊読みましたが、やはり圧倒的なのは塩野七生さんの『ローマ亡き後の地中海世界』ですね。

いきなり「真のイスラム教は暴力の行使を嫌悪していると言われることが多くなっているが、つい先ごろまでの長い歳月にわたって、現実はそうではなかった」ですから!! 現代的な視点を排除して「その時代の合理性」のみをキーワードに『海の都の物語』や『ローマ人の物語』を書いた塩野さんの面目躍如です。

山田風太朗さんの「明治もの」は、ここまで読んだ2作品ともとっても素晴らしいのですが、まだまだ続きますので、ここではランキングの外としておきます。

1.ローマ亡き後の地中海世界(塩野七生)
ローマ人の物語』の続編にあたりますが、時代的には『海の都の物語』とほぼ等しく、6世紀から16世紀にかけての、千年を超える期間の地中海世界が対象です。「サラセンの海賊」に略奪・拉致される恐怖を、千年もの間味わい続けたヨーロッパが、ルネサンス以降、力をたくわえて反撃を開始し、ついには「全欧州vs全イスラム」の様相を呈する「レパントの海戦」に至るまでが描かれます。

2.堕ちてゆく男(ドン・デリーロ)
9.11テロの記憶を風化させてはいけない。個人の記憶が忘却された後に入り込んでくるのは、巨大な何ものかが信じさせたがっている「別の物語」なのだから・・。こんな著者の想いが本書を執筆させたようです。被害者であった主人公の記憶が、テロリストの記憶と交差する美しいエンディングは秀逸です。

3.家、家にあらず(松井今朝子)]
とある大名家の奥御殿に奉公に上がった娘が巻き込まれていく陰湿な事件は、いったい何が原因で、娘はどういう役割を果たすことが期待されているのか。「家」を「家」とするものとは何なのか。『レベッカ』を髣髴とさせるゴチック・ロマンですが、社会的に無力な封建期の若い女性が自立していく物語として読むこともできるのでしょう。



2009/5/1