りぼんの読書ノート

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ジャパン・ディグニティ( 高森美由紀)

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暮らしの基本を構成する「衣食住」をテーマにした小説を対象とする「暮らしの小説大賞」の第1回受賞作です。

主人公は、青森で生まれ育った22歳の美也子。彼女の家族と生活は崩壊寸前になっていました。父親は昔気質の津軽塗の職人なのですが、仕事は減るばかり。津軽塗はおそろしく手間と時間がかかるのに対して、輪島塗や会津塗と比較して「デザインにキレがない」ため、人気が出ないとのこと。生活苦に陥っても頑固で酒飲みの父親に愛想を尽かした母親は家を出てしまいます。スーパーのレジで働いていた美也子は、内向的で人見知りの性格のせいで、クレーマーにも同僚にもいじめられるのが我慢できずに退職。他にすることもないまま、父親から漆塗りを学び始めるのですが・・。

小説ですから、このまま伝統の灯が消えて一家が貧困の底に沈むという展開にはなりません。美也子は不器用ながらも次第に腕をあげ、オランダに渡っていた「オネエ」の弟の勧めで、国際的な工芸展への出品を決意するのです。この作品がいいですね。なんとグランドビアノなのです。表面は漆黒の蓋をあけると、裏面は朱や緑で鮮やかに菜食されているというのですから。

物語の展開は都合良すぎる感もあるのですが、津軽塗津軽弁の存在感とバランスが取れているようです。生活が成り立ってはじめて「ディグニティ=尊厳」を実感できるようにも読めるのですが、それが現実なのでしょう。

2016/6