りぼんの読書ノート

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暗号解読(サイモン・シン)

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初期の転置式暗号から、現在のネット社会で標準となっているRSA暗号、さらには未来の量子暗号までをも説明している暗号解読本であり、読者がこれらの暗号を実際に体験しながら読み進めることができるようになっています。でもこの本のすごさは、こんなに複雑な内容を、無味乾燥な解説書として綴っただけではなく、暗号解読者たちのドラマとして「読み物」としてしまった点。

エリザベス1世暗殺に関する暗号文書が破られ、処刑されたメアリー・スチュワートの事件や(ちょっと前に、映画「エリザベス:ゴールデン・エイジ」で観た場面です^^)、解読不能と言われたドイツのエニグマ暗号を破ったポーランドとイギリスの暗号解読者たちの苦闘など、暗号が歴史を変えた瞬間がドラマチックに描かれます。

途中で挿入されているヒエログリフや線文字Bなど古代文字の解読物語でも、解読の本質がパターン分析とひらめきによるものであること、言語体系そのものが失われている場合には解読が極めて困難であることが丁寧に説明されていました。エトルリア語や線文字Aなどの未解読言語の存在や、第二次大戦でナヴァホ族の言葉を用いた暗号が決して破られなかったことも、それを証明しているようです。

ところで、暗号を使用する際に問題となるのは「鍵の受け渡し」です。未解読の古代文字のように誰にも解けない暗号は無意味で、メッセージを伝えたい相手には解読してもらわなくてはなりませんので。

対象が限定されていた軍事目的中心の時代でも、「鍵の配送」には多大なコストとリスクがあったのに、現代のネット社会で不特定多数者が機密情報の保護を必要とするようになってクローズアップされてきたのが「公開鍵」。

これは、誰でも使えるけれど、自分だけが鍵を持っていて開けられる錠前を配るということ。現在の主流は「巨大な素数の積」であり、発明者の頭文字からRSA暗号と呼ばれています。素数因数分解に公式はなく、10の何百乗の数字を一つずつ試していくには何千年もかかるようなんですね。

これとて、同時に膨大な数の計算ができると想定されている将来の量子コンピューターの前では無敵ではないとのことで、はやくもその時代を想定した量子暗号まで理論化されつつあるとのこと。このあたり、気が遠くなるような思いで読みました。

最後に、簡単な暗号をつけておきますので、時間と興味のある方はトライしてはいかが?
暗号は「t w e f q b」。ヒントは「CODE」です。

2008/6/19読了