でも、陳舜臣さんや宮城谷昌光さんのみならず、すでに数多くの方が手がけている中国史。とりわけ、秦や漢の建国史や、三国時代、唐の玄宗皇帝、宋の滅亡、清末期から現代にかけては色んな方が色んな切り口で描いていて、新味を打ち出すのは難しそうです。
と思ったら、仁木さんが「発掘」してきたのは、朱全忠。唐代末期から宋の建国の間に、「五代十国」と呼ばれる70年ほどの時代がありました。南北で不安定な短命王朝が乱立した時代ですが、特に北方中原の「五代」は、ほとんどの王朝が一代限りで滅ぶというありさまで、5つの国号と皇帝の名前を年代順に記憶している人がいたらお目にかかりたいくらい。
そんなマイナーな歴史時代の中でも、唐を滅亡させて後梁を建国した朱全忠は有名なほうでしょう。本書では、貧しい暮らしの中で朱三(本名:朱温)と呼ばれながら武術を学んでいた少年時代から、唐全土を揺るがした「王仙芝と黄巣の乱」に参加して、洛陽や長安を陥落させるまでが描かれます・・ということは、続編もあるんでしょうね。もう読まなくてもいい気もしますが・・。
だって、主人公に魅力がないし、エピソードだっておもしろくないんですもん。著者は、朱全忠のことを「既成のイデオロギーに対する反逆者」であると描きたいのでしょうが、結局のところ彼が戦うのは、家族のためであり、愛する者のためであり、あまり新味を感じません。よく調べているとは思いますけどね。
2008/6