りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

スキャナー・ダークリー(フィリップ・K・ディック)

イメージ 1

ディック本人が、後書きで記しています。仲間同士で楽しく遊んでいただけなのに、その代償はあまりにも大きかった・・。彼らが得たものは一時の気晴らしにすぎなかったのに、代償として支払ったものは犯罪歴のみならず、不治の病であったり、人生そのものであったりしたのですから。

主人公のフレッドは、上司にも自分の仮の姿を教えていない麻薬のおとり捜査官。普段は麻薬中毒者のボブ・アークターとして、ヤク中仲間たちと同居している振りをしているのですが、ある日、上司からアークターの監視を命じられてしまいます。フレッドは、監視装置を通してアークターの姿を見ているうちに、それが自分自身であるとの認識を失い始め、徐々に壊れていくような感覚を覚えるのですが、最後に行き着いた先は、恐るべきものでした・・。

スキャナーとは監視装置のことですが、ダークでおぼろげな像しか映さないスキャナーとなると、これはフレッド自身のことなのでしょう。事実フレッドが最終的に果たす役割は、決してクリアに物事が判断できるようなものではないのですから。監視対象でありながら、フレッド/アークターが愛し始めてしまった10代の少女ドナは、ヤク中の密売人と思われていたのですが、彼女の真の姿も意外なものでした。

ディックの前期作品にみられる、読者の期待を寸断するかのような意表をついた展開こそ見られませんが、本人の麻薬体験を基に書かれた本書からは、異様な怖さを感じます。

2008/6