りぼんの読書ノート

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黄昏の彼女たち(サラ・ウォーターズ)

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第一次世界大戦で父と兄弟を失い、めっきり老け込んだ母親と2人暮らしになったフランシスは、もはや広い屋敷を維持できません。銀行員のレナードとリリアンの若い夫婦に部屋を貸すことにしたものの、同居人を置く生活は神経を使うもの。夫婦仲がうまくいっていない様子にも気づいてしまいます。やがて、フランシスとリリアンには互いを思う感情が芽生えてくるのです。

半身夜愁の著者ですから、女性同士の細やかな感情の触れ合いは手慣れたもの。かつてスキャンダラスな恋愛を経験して心を閉ざしたというフランシスの胸から、リリアンが見えない杭を引き抜く場面など、惚れ惚れしてしまいます。

しかし下巻に入ると様相は一変。殺人事件が起こり、捜査と裁判を中心にしたミステリ・モードに入ると、女性同士の「魔法がかかった状態」は次第に解けていくかのよう。新たに判明した事実は、フランシスにリリアンに対する疑心まで起こさせたりもするのです。そして、容疑者として裁判にかけられた若い男性が無実であることを、2人は知っていたのですが・・。

現代の名手である著者の圧倒的な描写力には、いつも引き込まれてしまいます。読者は、2人の女性と共に「魔法が完全に解けた」状態で放置されてしまうのですが、それすら気分良く感じられるほどです。

2017/10