りぼんの読書ノート

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テロルの決算(沢木耕太郎)

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山口二矢(やまぐちおとや)」といっても、誰のことなのかピンとこない人が大半かもしれません。1960年に日比谷公会堂で演説中の社会党委員長の浅沼稲次郎を刺殺し、直後に獄中で自殺した右翼少年です。

本書は、著者がデビュー4年目の1979年に著し、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した作品です。まだ「私ノンフィクション」の手法を確立する前、「夭折者を描きたかった」という著者の言葉に反して、本書では浅沼稲次郎の生涯のほうに重きが置かれているようです。ずっと裏方に徹した後、ようやく晴れの舞台に立った61歳の野党政治家の年輪の前では、当時17歳の右翼少年の純粋さは短絡的にしか感じられません。

もっともそれは、少年テロリストの存在が普通に思えるようになってしまった悲しい時代に、本書に接した読者の感想なのでしょう。1960年当時には、あるいは1979年当時ですら、少年テロリストというのはショッキングな存在だったはずです。

山口二矢浅沼稲次郎を殺害目標に選んだ理由は、直前の中国訪問の際に中国を礼賛する発言をしたことであったとのこと。著者は「浅沼の発言も、山口の行為も国際政治の前にはまったく無効だった」と位置付けたうえで、「2人の行為の虚しさと、それゆえの純一な煌めきを際立たせることができなかった」との後書きを記していますが、それでも2人の人生が激しく交差した一瞬をとらえている作品です。

2017/10