りぼんの読書ノート

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鞠子はすてきな役立たず(山崎ナオコーラ)

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新聞に連載されていた時と単行本で出版された時には『趣味で腹いっぱい』というタイトルだったのが、文庫化の際に改題されたとのこと。当初のタイトルではエッセイと勘違いされそうという理由だそうですが、このタイトルもなんだか意味不明ですね。しかし本書を読み終えると気付くはずです。このタイトルこそがこの本の内容を見事に伝えていると。

 

「「働かざる者食うべからず」と幼い頃から父親に言われてきた小太郎は、高校卒業後に銀行員となって真面目に働き続けています。そんな小太郎が出会った鞠子という女性は、まさに真逆の価値観の持ち主でした。親に頼んで大学院まで行かせてもらったのに、アルバイト生活で専業主婦志望。小太郎がさりげなく提案した共働きは拒否され、お金にならない趣味に生きることを宣言されてしまうのです。

 

しかしこんな2人が結婚してうまくいくのだから不思議なもの。しかし、絵手紙、家庭菜園、小説、散歩・・と次々に変わる鞠子の趣味につきあう小太郎は、やはり根っからの真面目人間なのです。なんと試みに書いてみた小説が新人賞を受賞して、ついには銀行を辞めて小説家になってしまうのですから。もちろん趣味に徹sることが信条の鞠子は、友人と一緒にお金にならない同人誌を自費出版し、あげくの果ては気に入った嬉野に「単身赴任」ならぬ「単身赴趣味」をしたいと言い出す始末。それでも2人の関係は悪化しないのでしょうか。

 

直前に読んだ『偽姉妹』でもそうでしたが、既存の価値観をひっくり返される感覚は楽しいですね。「働かざる者食うべからず」とか「自立」という言葉が、傲慢さを含んでいるように思えてきてしまいます。でも、小太郎ほどに容量が大きな人物はめったにいないのだろうなぁ。

 

2021/11