りぼんの読書ノート

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御社のチャラ男(絲山秋子)

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まずタイトルに騙されました。「チャラ男」というから今どきの薄っぺらい青年かと思ったら、中年の部長なのです。地方の食品会社に社長のコネで中途採用され、いきなり営業統括部長となった三芳道造44歳。チャラ男の定義は人によって異なるのですが、総合すると「見栄っ張りで世渡り上手、話題が豊富なわりに内容は聞きかじり、常に自分中心、頭がよくて危機管理能力が高い半面、責任感はない、そしてあまり働かない」ような人物のこと。このような人物は、一定の確率で必ずどこにでもいるようです。

 

本書では、三芳部長を巡る12人の人物が彼のことを語ります。実は政治家を目指している総務の女性(24歳)。会社のブラックさに疲れている営業マン(32歳)。男社会の猿山が壊れかけていることに気付いた営業マン(24歳)。三芳部長の寂しさに気付いた不倫相手の女性(33歳)。会社のイジメ体質に嫌気がさしているIT担当(41歳)。マウント術に長けていてた社長(69歳)。三芳部長に目の敵にされた接盗癖のある男性(55歳)。うつ病で休職したのち復帰した女性(29歳)などなど。年齢を記載したのは、チャラ男との関係を通して、それぞれの世代が担っているものをイメージさせたかったからでしょう。チャラ男本人も自分の中途半端な才能に気付きながらも、何かを担っているのです。

 

本書のテーマはチャラ男の存在ではなく、会社という閉鎖社会が持つ特殊性と、それが壊れた後の生き方なのでしょう。しかも旧態依然とした会社の構造が壊れようとしていることは、誰の目にも明らかなのですから。若い女性作家による会社小説として話題になった『沖で待つ』でデビューした著者は、会社社会の崩壊過程で見えてくるものに狙いをつけているようです。

 

本論からは外れますが、著者はある登場人物に「9のつく年は中国で波乱が起きる。テロなのか、内戦なのか、天災なのか、パンデミックなのかわからないけれど」と語らせています。本書は、新型コロナ禍の発生を予言した小説でもあるようです。

 

2021/7