りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

烏有此譚(円城塔)

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タイトルは「うゆうしたん」と読みます。「烏(いずくん)ぞ此の譚(はなし)有らんや」と読み下す漢文だとのことであり、「まあこんな話はないよね」くらいの意味です。

 

従って本書の「本文」は、要するにホラ話。ポンペイの遺跡から発掘された人型の空洞から発想を得て、自分や友人がそのような空虚な存在になってしまう悲嘆や諦念が延々と書き連ねられるのです。自分を人型の空洞にしてしまうものは、降り積もる裡なる灰と、四畳半を埋め尽くしていく雑多なものたち。はたして語り手はなんらかの希望にてどりつけるのでしょうか。もちろんそんなことをテーマとする作品ではないのですが。

 

「本文」と書いたのは、本書の各ページの1/3ほどが、夥しい「注」で占められているためです。しかも「注」に用いられる言葉の「注」まであって、もはや本文とは関りのない独自の世界。本書を手に取る人の1/3くらいは読まないのではないかと思われます。まあ『なんとなく、クリスタル』の注よりは読みがいありますが、『新日本古典文学大系源氏物語』の注ほど必須というわけではありません。

 

後に『道化師の蝶』で芥川賞を受賞し、『Self-Reference ENGINE』でフィリップ・K・ディック賞の特別賞を受賞する著者も、デビュー当時はこのような作品を書いていたのか・・と思ったのですが、『Self-Reference ENGINE』がデビュー作だったのですね。ちなみに本書は三島由紀夫賞を受賞しています。

 

2021/11