りぼんの読書ノート

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日乃出が走る(中島久枝)

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時は明治2年。世の混乱と主人の急死によって店を閉めることになった老舗菓子店・橘屋の一人娘・日之出が、悪徳豪商に立ち向かう物語。父の形見の掛け軸を取り戻すには、父が創った幻の菓子「薄紅」を売って、「百日で百両」稼がなければならないのですが、彼女が持っていたのは味覚の記憶だけだったのです。

やはり没落していた横浜の菓子店を舞台にして、菓子造りとともに人生にとって大事なものを学んでいく、16歳の少女の成長物語。父親が抱えていた秘密や、日之出の仲間たちが抱えていた過去が物語に深みを与えてはいますが、テーマも展開も、ラノベらしくシンプルです。

しかし本書が並のラノベと一味違うのは、著者がフードライターである点なのでした。大福、お焼き、桜餅、善哉という伝統的な和菓子から、マシュマロ、マカロンアイスクリンという洋菓子まで、描写がすごいのです。

ラストは少々あっけなく、徳川家を持ち出すなど権威主義的でもご都合主義的でもあるのですが、このわかりやすさも含めて本書の魅力なのでしょう。第三回ポプラ社小説新人賞の特別賞を受賞しており、すでに第3巻までシリーズ化されています。

2017/3