りぼんの読書ノート

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ファラゴ(ヤン・アペリ)

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フランスには「高校生が選ぶゴンクール賞」という文学賞があり、本書はその受賞作とのこと。この賞の受賞作はレベルが高くて本の売れ行きにも影響するとのことなので、選考基準や過程は異なりますが「本屋大賞」のような役割を担っているのかもしれません。ともあれ本書を読んで一番驚いたのは、これがフランス小説であるということ。物語の舞台がカリフォルニア奥地にあるファラゴという架空の町であることはともかくとして、いかにもアメリカらしい人生観や冒険譚に満ちた作品なのです。

 

アメリカ全土でアポロ計画ベトナム戦争ウォーターゲート裁判が話題になっている頃、そこだけ時間が止まっているようなファラゴの村では、世間の喧騒をよそに千年一日のごとく暮らしている人々がいました。元孤児で野生の生活を続けている語り手のホーマー。荒唐無稽な計画に没頭する夢想家イライジャ。謎の過去を抱える食料品店主の賢人ファウストー。ゴミ捨て場で暮らす聖人デューク。ハリウッドを目指す売春婦オフィーリア。ほかにも牧師、保安官、売春宿の女主人、老犬ボーンなど。

 

物語はホーマーがファウストーの過去についての打ち明け話を聞くところから動き出します。「人生を変えるような経験を何もしてこなかった」と嘆くホーマーでしたが、流れ星に「運命を変える出来事」を願ったことで彼の人生は一変してしまうのです。オフィーリアとの恋、ゴミ捨て場での英雄的行動、廃鉱山を爆破する目的を持つ一味からの誘い、ならず者ジムの登場、シエラ山脈への逃避行、デュークの厳かな死、ファウストーの過去への決着・・。

 

やがて、破天荒な冒険の中で人間の運命に関する単純ながら根源的な疑問を抱き続けたホーマーは気づくのです。「誰にでも物語はあり、自分の不幸をだれか別の人間にうまく語れないことなんだ」と。そして「すぐれた物語も、人に恥じないような死も、円環を描く」ものなのだと。ホーマーはついに自分の半生をひとつの物語として語ることに成功したようです。ホーマーとは、西洋文学の起点とされる叙事詩イリアス』と『オデッセイア』の著者とされる「ホメロス」に由来する名前なのでしょうし。

 

2022/5