りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サロメの乳母の話(塩野七生)

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歴史上の有名人物の身近にいた人は、その人物をどのように見ていたのでしょう。かなり楽しんで書かれた作品のようですが、著者による人物評価のほうが、意外と実像に近いのかもしれません。

「貞女の言い分」
夫オデゥッセウスの帰還を20年待ち続けた妻ペネロペは、もちろん彼の言い分など信じてはいないのです。マーガレット・アトウッドの『ペネロピアド』と比較すると、常識的な解釈なのですが。

サロメの乳母の話」
ダンスの報酬に聖ヨハネの首を所望したサロメの真意は、ローマ使節団の前で困り果てていた父ヘロデ王を救うことだったのかもしれません。

「ダンテの妻の嘆き」
ダンテがフィレンツェに戻れなかったのは、傲慢で自尊心が強いくせに世渡り下手な性格のせいなのでしょうか。さすがに苦労した妻はよく見ています。

「聖フランチェスコの母」
常人から見ると奇行でしかない聖人の振る舞いも、母親から見ると可愛い息子の優しさでしかないのでしょう。

「ユダの母親」
出世コースを棒に振って奇妙な落ちこぼれ集団に入った息子を嘆く母。しかし彼女は、落ちこぼれ集団の中で、さらに落ちこぼれることだけは許せなかったようです。

「カリグラ帝の馬」
皇帝に元老院議員に任命された馬は、皇帝が奇矯な振る舞いに及んだ心情をちゃんと理解していたのです。

「大王の奴隷の話」
アレクサンダー大王が東洋的な王として振舞ったのは、アジアにかぶれたからではなく、アジアの人々を統治するための方便だったのでしょうか。著者の最終的な評価は30年後に『ギリシア人の物語3 』で著わされます。

「師から見たブルータス」
カエサルが王になることを許せなかったブルータスの信念は、ギリシャ留学時代に優秀な学生でありすぎたせえいなのかもしれません。

「キリストの弟」
母親マリアの心情を弟が代弁しています。神を父と崇める信仰は、肉親には耐え難いものなのかもしれません。それでも息子の死は悲しいのです。

「ネロ皇帝の双子の兄」
ネロが在位中に優れた為政者から暴帝へと変身したのは、途中から双子の弟に変わられたせいとは、斬新なアイデアですね。20年後に名乗り出て殺害された男のほうが本物だそうです。

「饗宴・地獄変 第一夜」
エジプト女王クレオパトラビザンチン皇后テオドラ、トロイのヘレナ、ソクラテス夫人クサンチッペ、革命に散ったマリー・アントワネットが、毛沢東の妻・江青をゲストに招いて、互いの人物を評価しあいます。地獄も意外と住みやすいのかも。

「饗宴・地獄変 第二夜」
5人の悪女が、日本からは誰を饗宴に招待するかを議論しあいます。天照大御神も、持統天皇も、北条政子も、日野富子も、淀君も世界水準の悪女ではなさそうです。日本を代表する悪女は塩野七生

2019/5