ついに15歳となって父祖の地に戻ったテムジンは、父イェスゲイの死で四散したキャト氏族を呼び戻すことを決意。帰還を知らせるために弟カサル、従者ボオルチュ、槍の達人ジェルメを率いて、たった4騎で草原を駆け巡りますが、モンゴル族の盟主の座を狙うタイチウト氏はそれを許しません。千二百騎にまで増えたテムジンの軍を数倍の勢力で攻め、しかもテムジンの母親ホエルンを人質に取るのです。その結果、テムジンの初戦は大敗でした。
しかし負け方も重要なのですね。生き延びたテムジンは存在感を示して、軍勢を倍増させることになるのですから。コンギラト族のボルテを妻としたテムジンは、自国内で鉄を産出・精錬できるような仕組みを構築しようと試みます。このあたりが後に効いてくるのでしょう。
一方で小族のジャンダラン氏を率いるジャムカもまた、隣国のメルキト族と対決するものの、老練なトクトアに翻弄されてしまいます。血路を開くために同盟関係を結ぼうと、さらに遠方のケレイト族のトオリル・カンを訪れます。いよいよ物語が大きく動き出しそうです。
「登場人物は、どれも自分なんです」と語る著者は、必ずしも英雄とは言えないタイチウト氏のタルグダイやトドエン・ギルテの心情も丁寧に描いています。こういうことが、物語に厚みを与えているのですね。
2019/5