りぼんの読書ノート

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チンギス紀 7(北方謙三)

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先のタタール討伐で金国についたテムジンとケレイトのトオリル・カンに対して、テムジンの盟友であったジャムカ、テムジンの仇敵であったタイチウト氏族のタルグダイ、メルキトの新たな族長となったアインガは、反金国の大連合を築こうとしていました。草原ではついに二大勢力に分れた大きな戦いが起ころうとしています。中華から見ると金国と西遼の北方における代理戦争にすぎませんが、これが後に中華のみならず西域・中東・欧州・北アフリカをも巻き込むことになっていくことなど、当時はまだ誰も知る由はありません。

 

キャト氏族を配下に組み入れていたテムジンですが、巨大勢力であるケレイトには遥かに及びません。おのずとトオリル・カンの下風に立つことになりますが、先鋒として戦いの主導権を握っていきます。この戦いによって草原の勢力図も大きく変わっていくのでしょう。一方の三者連合側ではジャムカが大将を務めることになり、ついに旧友同士の決戦が始まります。戦術眼も感性も似通っている2人は、ともに数万という騎馬軍団を率いて互いに譲りません。このあたりの描写には、楊令の梁山泊軍とvs童貫の宋禁軍の決戦を彷彿とさせるものがありますが、草原では数万の軍勢すべてが騎馬隊ですから機動力と破壊力が違います。

 

しかし最後にはテムジンとジャムカの違いが勝敗を決することになるのです。テムジンのもとではカサルやテムゲの弟たちをはじめとして、スブタイ、ジェベ、ボロクル、ムカリ、チラウンなどの若い将校が育っていることも大きいのですが、なんといっても膨大な替え馬を育て、強靭な鉄器を自製させていた先見の明が雌雄を決することになるのです。その意味では、決戦を前にして、その後を見据えた交易や通行の道を通すための地図造りや、鉄鉱山の探索や、法律や病院の整備を始めているテムジンの先見の明は恐るべきものです。それら後方活動の拠点となっているアウラガを襲撃させたジャムカもまた、テムジンが大切にしている思いを理解してわけです。

 

ついにモンゴルが統一されようとしています。テムジンの新しい世界はどのようにして広がっていくのでしょう。

 

2020/11