りぼんの読書ノート

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チンギス紀 9(北方謙三)

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モンゴル族を統一してケレイト王国を滅ぼしたテムジンは、ついに草原の覇者として「チンギス・カン」を名乗ります。部族の長たちを集めてクリルタイを開き、天を崇める祭壇の前でチンギスという尊称を贈られてカンに推戴されたのです。しかし彼の心はまだ果てしない彼方を見続けているようです。西方の大国であるナイマン王国との決戦に臨む一方で、南方の西夏を抑えにかかったのには、陰山山脈に眠る鉄鉱脈を入手する目的もありました。北方で歩兵部隊として高い能力を持つ山の民と友好関係を築き上げたのは、キルギスへの対応を念頭に置いているのでしょう。形式的にはまだ臣従している金国への侵攻も現実味を帯びてきています。

 

その過程で、モンゴルの内政や軍事や整備されてきました。テムジンの旧友であるボオルチュが内政全般を担い、軍事面では後に「四狗」と呼ばれるジェルメ、ジェベ、クビライ、スブタイに加えて、後に「四駿」と呼ばれるボロクル、ムカリ、チラウンらも力を発揮してきました。カサルとテムゲの弟たちも一軍を率いる将才を表わし、さらには長男のジョチも成長してきました。後にと共にと呼ばれる重臣となる。「四駿」は戦ではチンギス・カンの傍から片時も離れず護衛する役目を持つ。

 

その一方で、草原にはまだテムジンに靡いていない者たちがいました。その最大勢力はメルキト族ですが、族長のアインガはテムジンに従うタイミングを求めているだけのように思えます。しかしかつての親友でライバルであり続けたジャムカは、執拗にテムジンを狙い続けます。ナイマンの大軍の中に潜みながら、テムジンに対する一撃必殺の機会を求め続けるのですが・・。

 

テムジンに敗れて既に草原を去った者たちも、それぞれに生き続けています。モンゴルのタイチウト氏を率いていたタルグダイと妻のラシャーンは、海に開けた南方でビジネスを起こすようです。彼らが目にした商船隊は、南宋のさらに南方から訪れたもののようです。北方のバイカルで狼とともに孤独に暮らしている、かつてメルキトを率いていたトクトアのもとには、ジャムカの息子であるマルガーシが流浪の果てに流れ着きました。テムジンが世界を広げていく中で、かつての梁山泊が開いた商いの道が大きな役割を果たしていくことは容易に理解できますが、彼らにも新たな活躍の場があるのでしょう。次巻からは新しい地平がテムジンを待っているようです。

 

2021/9