りぼんの読書ノート

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チンギス紀 8(北方謙三)

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草原での大きな戦いが終わりました。しかし敗者たちもそれぞれに生き延びています。タイチウトを率いていたタルグダイは瀕死の重傷を得ますが、妻で女戦死のラシャーンに助けられて北方へと落ち行きました。そこでかつてメルキトを率いていたトクトアと会いますが、もはや草原への影響力は失っています。メルキトの若い族長アインガは、何かを待って耐えているようです。彼はテムジンに投降する機会をうかがっているのでしょうか。草原でのライバルであったジャムカは、再起を諦めていません。テムジンに決戦を挑む機会を窺い続けますが、彼の脳裏にあるのはテムジンと何らかの決着をつけることなのでしょう。

 

勝者となったテムジンは、形の上では同盟国のケレイトに従属しているものの、モンゴル族を統一して実質的には草原の覇者となっています。将来のことを考えて、西夏との国境に近い陰山山脈で鉄の鉱脈を探し、広い牧場を何か所にも作り、定住の拠点としたアウラガではボオルチェらに命じて人材育成、医所、通信、交易、道路計画などを進展させて国力を向上させているのです。しかし彼が目指しているものは、彼自身にもまだはっきりとは見えていないのです。

 

テムジンの目上の同盟国であるケレイトでは、国王トオリル・カンの老いが目立つようになっています。息子セングムが無能であることを知りながら、後を継がせるために策を練る姿には、もはや老醜すら感じられます。流浪の軍を立ち上げたジャムカ討伐をテムジンに命じたトオリルは、後詰の援軍と称して3万の大軍を進発させたものの、この奸計はテムジンの想定内だったようです。

 

もともと金と西遼の代理戦争的な色彩が濃かった草原の戦闘でしたが、テムジンは南方の大国の存在すら利用するほどの戦闘力と洞察力を身に着けつつあるようです。北方で残る大国はナイマンだけですが、彼らの旧態依然たる軍事力ではテムジンの敵ではないでしょう。次巻では、ジャムカとの決着をつけることで、新たなる地平が見えてくるのでしょう。

 

2021/5