りぼんの読書ノート

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国境の向こう側(グレアム・グリーン)

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日本オリジナルの短編集ですが、本書と『二十一の短篇』と『見えない日本の紳士たち』を合わせて、全短編が「ハヤカワEPI文庫」に収録されたことになるようです。巨匠のウィットを思う存分楽しめます。

「最後の言葉」
未来のディストピアを支配する将軍が、記憶を失った最後のローマ法王を式典に招いた真意は何だったのでしょう。

「英語放送」
ナチスに囚われて英国向けのドイツ宣伝放送を担当している大学教授は、祖国や家族を本当に裏切っていたのでしょうか。自ら諜報活動に携わったことのある著者らしい作品です。

「真実の瞬間」
死病を告知されたシェフが、最後の告白相手に選んだのは意外な相手でした。でもいきなりそんなこと言われても・・。

エッフェル塔を盗んだ男」
エッフェル塔が1週間の間盗まれていたことに、パリの人々も旅行者も気づかないなんて!

「中尉が最後に死んだ」
戦時中に書かれたプロパガンダ的作品ですが、敵のドイツ兵のほうが生き生きと描かれているのは、さすが文豪だから?

「秘密情報機関の一部局」
レストランでの情報収集専門の部局に、胃弱の男が配置されるという悲喜劇です。

「ある老人の記憶」
ドーバートンネルがテロにあって甚大な被害をもたらしますが、人々の記憶は短いようです。もちろん近未来を描いたフィクションです。

「宝くじ」
言葉の通じない国で宝くじに当選して、善意の寄付を申し出たことが、悲劇を生んでしまいます。かなり皮肉の効いた作品ですね。

「新築の家」
報酬のためなら、建築家の信念だって曲がってしまいます。だから醜悪な近代建築が多いのかも?

「はかどらぬ作品」
クリスマスに上演されるコミカルなミュージカル劇を頼まれた男が、とんでもない台本を書いてしまいます。著者は宗教嫌いで有名なのでした。

「不当な理由による殺人」
初期に書かれたミステリなのですが、「悪い奴がいつも正当な理由で殺されるとは限らない」との警句を地で行くような作品なのが著者らしい点ですね。

「将軍との会見」
南米の将軍に挑発的な取材を行った女性記者が、はからずも独裁者の哀しい本音を聞き出してしまいます。

「モランとの夜」
神を信頼するあまりに神を遠ざけた男とは、著者自身の投影なのでしょうか。

「見知らぬ地の夢」
ハンセン氏病と診断されて隔離されようとしている男が、最後にすがった医師の家で思いがけない出来事に遭遇します。悲劇の度合いを増しただけなのですが。

「森で見つけたもの」
村はずれの森に遠征した少年たちが見つけたものとは何だったのでしょう。まさかこの作品が、文明消失後の未来を描いたSFだったとは!

「国境の向こう側」
表題作ですが、未完に終わった長編の冒頭のようです。アフリカで英国領の外に探検に出た男が遭遇した悲劇を知るすべは、もはやありません。、

2019/5