りぼんの読書ノート

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イモータル(萩耿介)

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インドで消息を絶った兄が残した「智慧の書」とはどのような力を宿していたのでしょう。物語は「智慧のの書」が誕生し、現代へと引き継がれてきた経緯に遡っていきます。 

 

はじめにあったのはサンスクリット語で書かれたヒンドゥー語の根本経典『ウパニシャッド』。それをペルシャ語に翻訳させた、ムガール帝国の王子ダーラー・シコー。彼は弟との政争に敗れ処刑されてしまったものの、ペルシャ語訳はヨーロッパへと伝えられます。その役割を担ったのはフランス革命前にインドに渡った東洋学者のデュペロン。彼の功績は啓蒙思想家たちから無視されるどころか、偽書とまで貶されますが、それを読んで感動したのが若きショーペンハウアーでした。後に『意志と表象しての世界』として世に出た哲学書は、世界各地に広まっていったのです。 

 

では本書の原題でもある「不滅の書」とは、時代と地域を超えた哲学書のことなのでしょうか。著者はこの書物に現生と来世を結ぶ不思議なパワーを与えているのですが、それは読者が自己を投影できる書物であるという意味なのでしょうか。主人公が亡兄の足跡ををたどって赴いたインドの混沌の中では、いかなることも可能であるように思えてくるのですが・・。 

 

2019/11