りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

わたしのいるところ(ジュンパ・ラヒリ)

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インド系移民の2世であり、『停電の夜に』や『その名にちなんで』などの名作で数々の文学賞を受賞してきた著者が、「英語とベンガル語の長い対立から逃れる」ためにローマに移住し、新たに学んだイタリア語で執筆を始めた時には驚きました。エッセイ集『べつの言葉で』に続いてイタリア語で書かれた第2作である本書の語り手は、既にローマとおぼしき都会で生まれ育った女性です。 

 

長編ですが、46カ所の場所での想いを綴った掌編小説集といっても良いかもしれません。しかしその中から、語り手が抱いている内面的な孤独の深さと、その孤独によって人生を支えている強さが浮かび上がってくるのです。 

 

歩道で、仕事場で、トラットリアで、クリニックで、美術館で、母の家で、自分の家で、どこでもない場所で抱いた折々の心象から、語り手の人生が浮かび上がってきます。彼女を愛してくれた父親を少女時代に亡くし、毒親でしかない母親の悲しみを理解するに至り、5年暮らした恋人と別れながらもほのかな想いを密かに抱き続けている、40代半ばで一人暮らしをしている大学講師。少なくない交友関係を保ちつつも、誰とも深く関わらないでいるのは、家族を「牢獄」と感じていた母親の影響も大きいのでしょう。 

 

しかしそんな彼女が足を踏み出す時が来たのかもしれません。「長い闘病生活を経て著作をものした、誠実で辛辣そうな哲学者」は、彼女の出口になるのでしょうか。2015年にアメリカに戻って大学で教鞭をとっている著者は、2019年現在サバティカルで再びローマに滞在しているとのこと。翻訳活動にも力を入れているようですが、著者の次の小説がどの言語で書かれるどのような作品となるのか、期待してしまいます。 

 

2020/1