りぼんの読書ノート

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がらしあ(篠綾子)

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明智光秀の娘として生まれて細川忠興の妻となり、関ヶ原の戦いの際に石田三成の命による人質を拒んで死を選んだ、細川がらしあ玉子の生涯を丁寧に綴った作品です。「がらしあ」とは不思議に感じる洗礼名ですが、ラテン語で「Gratia」、英語では「Grace」という言葉ですね。ケルティック・ウーマンや本多美奈子の歌う「Amaging Grace」を頭の中に響かせながら読みました。

もちろん中心になるのは、キリスト教信仰へと至る過程であり、ここが作家としての腕の見せ所ですね。コミカルなタッチのヒット作紫式部の娘。賢子がまいる!ですら、綿密な時代考証を基に綴っている著者ですので、もちろん史実をおろそかにすることはありません。

本書での玉子は、聡明で純真ではあるものの、激しい感情を抱く女性として描かれます。謀反人の娘となってしまったことへの悲嘆。保身のみを考える夫によって幽閉されたことへの不満。さらには光秀を討った秀吉への憎しみや、最後に光秀を見限った舅・藤孝や公家社会への怒り。しかしそうだからこそ、キリスト教の教えに触れて、ネガティブな感情が篤い信仰へと昇華されていったのでしょう。その過程で、小侍従(ルチア)や、清原いと(マリア)という献身的な侍女たちも大きな役割を果たします。

そして関ヶ原の前夜、彼女を人質に取ろうとした三成の手勢に囲まれて、壮絶な最期を遂げるのです。「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ 」との辞世の句には、殉教者の覚悟と同質のものを感じますね。玉子の生涯はウィーンで戯曲化され、ハプスブルク家の姫君たちに好まれたとのことです。この戯曲がマリア・テレジアの結婚を後押ししたという、幕間の物語との繋がりが見事でした。

2018/9