りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

踏切の幽霊(高野和明)

『13階段』や『ジェノサイド』のイメージが強かったのですが、著者の本領は「社会派ホラーミステリ」で発揮されるのかもしれません。幽霊譚をがっつり中心に置いた作品です。

 

都会の片隅にある踏切で撮影された心霊写真。そこでは列車の非常停止が相次いでいました。取材に乗り出した女性向け雑誌記者の松田は、1年前にその踏切近くで殺人事件があったことを聞き出します。しかし現行犯で逮捕された犯人は何も語らず、被害者の若い女性は身元不明だというのです。そして心霊調査をする松田の周辺でも次々と怪奇現象が起こり始めました。

 

女性の幽霊の存在を前提にした作品です。彼女は身元を洗い出して欲しいのか。それとも犯人への復讐なのか。やがて松田がたどり着いたのは、政治家と犯罪組織の癒着という思わぬ真実でした。そして即死状態であったはずの女性が必死で踏切までたどり着いた理由は、哀しみに満ちていたのです。

 

1994年という時代設定もいいですね。バブル崩壊直後で、インターネットやケータイが普及する直前の時代。誰でもどこでも気軽に写真を撮って加工編集し、気軽に投稿できてしまう現代では、心霊写真などはもはや死語に近いのでしょう。本書はまた、長年連れ添った愛妻を失った主人公の再生物語という、もうひとつの側面を持っています。こちらは時代制約との関りは薄いですね。この組み合わせが絶妙でした。

 

2024/4