りぼんの読書ノート

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茜唄 下(今村翔吾)

平清盛の四男であり、平家棟梁となった兄の宗盛を補佐して源平合戦を闘い抜いた平知盛を視点人物とする「今村本平家物語」は、いよいよ佳境に入っていきます。「三国志」さながらの「天下三分の計」を実現させるために知盛が築き上げた必勝態勢はなぜもろくも崩れ去ったのでしょう。もちろん直接的な理由は、知盛に相対した源義経がとんでもない軍事の天才であったことなのですが、それだけではありません。壇ノ浦で知盛が平家滅亡を覚悟して源義経を救出するという、思いも寄らない展開が待ち受けています。

 

「平家は負け出してからが美しい」とは、著者の言葉です。あえて義経視点を排除して一の谷、屋島、壇ノ浦を描いたことが、「滅びの美学」を際立たせています。もっとも著者自身「義経の視点を取ったら小説としては楽」と語っており、「平家を3回連続でかっこよく負けさせることは挑戦だった」ようです。ついでながら大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で菅田将暉さんが演じた義経像は、本書の義経をイメージしているように思えるのですが、いかがでしょう。

 

さて「敗者の名を冠した歴史物語がなぜ後世に伝えられたのか」というテーマに対する著者の解答が、やはり本書最大の読ませ所でした。、本書は「戦の唄」であり「涙の唄」であると同時に、「家族の唄」であり「命の唄」であり「愛の唄」でもあったのです。『宮尾本平家物語』では「明子」と呼ばれ、本書では「希子」と呼ばれている女性がキーパーソンであるということだけ記しておきましょう。

 

2024/4