りぼんの読書ノート

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花と舞と 一人静 (篠綾子)

源義経の愛妾として知られる静御前は実在したようですが、生没年も不明であり、謎の多い女性です。『吾妻鏡』では、都落ちした義経との吉野での別れ、母の磯禅師とともに鎌倉に送られての白拍子の舞、出産した義経男児を殺害された後に帰京させられた半年間のエピソードのみが記されています。著者はそこから、時代背景を押さえながら、歴史の流れに翻弄されたひとりの女性の姿を描き出しました。

 

本書の静御前は、母から諭された「芸の道か恋の道、どちらかしか選べない」との教えに反発し、その両方を追い求めた女性として描かれます。ただし義経と運命の出会いを果たした後は「義経のためだけに舞いたい」との思いが芸に昇華されたようであり、その意味では「万人のための舞」とは言えないのかもしれません。

 

本書の姉妹編ともいえる『義経と郷姫』で、衣川で義経と運命を共にしながらも影の薄い正妻・郷姫の生涯を描いた著者としては、この2人の関係性がポイントであったことは間違いありません。互いの義経への想いを理解し合い、敬愛し合いながら庇い合う美しい関係として描き出されますが、嫉妬の炎に焼き尽くされるようなドロドロの関係のほうが面白かったのではないか・・などと思うのは不謹慎でしょうか。

 

ともあれ今に至るまで人口に膾炙する「しづやしづ しづのをだまきくりかへし 昔を今になすよしもがな」の舞や、茎が2本ある「白拍子の花」に対して茎が1本しかない「ヒトリシズカ」の由来となった静御前の生涯は、女性の自立という現代的なテーマにも耐えうる物語として本書の中で再構築されたと言えるのでしょう。

 

2023/5