りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

播磨国妖綺譚 伊佐々王の記(上田早夕里)

15世紀半ば、足利時代播磨国を舞台として、平安時代陰陽師蘆屋道満の末裔である2人の青年を主人公とする呪術ファンタジーの第2弾。怪異が見える僧形の弟・呂秀と、見る才はないものの強力な術師である薬師の兄・律秀のコンビはバランスが取れていますね。安倍晴明をはじめとする平安京陰陽師と異なり、地方の庶民のために働く法師陰陽師には、祈祷と漢薬が必需品だったのです。

 

兄弟がシリーズ第2弾で対峙する相手は、かつて人間たちに討伐されて滝壺へと姿を変えていた巨鹿の伊佐々王でした。人間への恨みを募らせて強力な呪力を身に着けた巨鹿の怪は、呂秀に式神として仕える「あきつ鬼」や、土地神である瑞雲とも互角の力を有しているようです。そして伊佐々王を蘇らせた、人間界の全てを呪って死んだガモウダイゴなるはぐれ陰陽師の怨霊は、あきつ鬼をも操ろうとしているようなのです。

 

この物語は本巻のみでは完結していません。どうやらガモウダイゴは、播磨の守護・赤松満祐が足利幕府の6代将軍・義教を殺害した「嘉吉の乱」と関わっているようですが、伊佐々王やあきつ鬼を使って何をしようとしているのでしょう。蘆屋道満に仕えてる前の記憶を失っているあきつ鬼の正体は、何なのでしょう。さらに、幕間に登場して蝶から舞を学んだ猿楽師の竹葉は、陰陽師たちの物語とどのように関わってくるのでしょう。

 

もともとSF作家である著者は、呂秀が見る「怪」の世界と、律秀が説く「理の世界」をバランスよく描いていますね。物語の展開もスムーズで、説明も過不足なく、人物描写もしっかりしています。初期のバイオSF作品などではSF的発想が前面に出ていたのですが、本当に上手になっています。このシリーズは、著者の代表作になるのかもしれません。

 

2024/4